コーヒーを淹れることから、すべては始まる

essay

リモートでの在宅勤務がメインとなってからは、極端に仕事とプライベートの境界線があいまいになった。

朝や寒さに弱い私にとって、始業のタイミングはいつまでたってもやってこない。学校のような始まりのチャイムはないし、大人になった僕に対していつまでもベッドにいたところで怒鳴りつけてくれるような人もいない。

布団の中で猫とくるまりながらPCの電源をオンにし、なんとなく一日が始まる・・。

コロナ騒動が始まってからもうすぐ2年になるが、これが私の一日の始まり方だった。コーヒーにこだわりを見出すまでは。

ドリフトコーヒーとの出会い

ファンガスブラザーズ仲間のジェームスはもともとコーヒーが好きで、昔からよく一緒に喫茶店で時間を過ごした。その頃はどちらかといえば、場の雰囲気が好きで行っていたように思う。

だが原宿に住んでいる際に通っていたコーヒー店との出会いで、我々の中で何かが変わった。

「Drift Coffee(ドリフトコーヒー)」というその店は、ギャラリーコンプレックスのデザインフェスタ裏手で営業をしていた。

こだわりの生豆を手で選別し、ガスストーブでじっくりと手回しで焙煎したものを、ネルドリップでじっくりと淹れてくれる。店主の清水さんとの距離感が、コーヒーの味に一層の奥行きをもたらしてくれる、そんなお店だ。

毎日のように通っているうちに彼らの距離感は誰よりも近くなり、ジェームスは焙煎を覚えた。
Naked Beans(ネイキッドビーンズ)

共同アトリエで焙煎や豆の種類、淹れ方についてジェームスから話を聞くうちに、私自身もコーヒーへの興味と関心が高まりドリフトコーヒーに何度か足を運ぶこととなる。清水さんの淹れたものをいくつも飲んでいると、コーヒーの概念が変わった。

苦くて黒い液体というイメージだったが、まるで果物のジュースのような風味があり、浅煎りだからなのは当然とはいえ液体も心なしか赤く輝いているようにも見える。次第にその奥深さのとりことなった私も、気づけばドリップセットを用意していた。

自宅でコーヒーを淹れる事が、スイッチの切り替えに役立つように

我が家のコーヒー器具

用意したのは定番のハリオV60のシリーズ。ドリップポッドは御中元でもらった燕三条のものを使っている。豆はカルディで買ってきたものを挽いて入れていたが、鮮度や味の違いがドリフトコーヒーのものに比べると顕著だったため、買うのをやめた。

ドリフトコーヒー、ネイキッドビーンズ、近所の焙煎所のもの。産地の違い、深煎り浅煎り。その日の気分に合わせて豆を選択するのも楽しみの一つだ。

アドバイスにしたがって温度計を買ったり、タイマーを使って蒸らす時間をとったり、ドリッパーを変えたりと工夫をしているが、一向に清水さんの出す味は出ない。こうしてお気に入りのコーヒー器具も増えていく。

近いものは5回に1度ほどは再現されるものの、やはりどの要素が違いを生み出しているのかわからず毎朝の日課にある種の楽しみを与えてくれる。

美味しく出たら上機嫌で仕事を始めることができるし、そうでなかったら次はもっと良いのを出そうという気持ちになる。

そうしていつしか、コーヒーと向き合う時間から一日が始まるようになった。いまは明確な、仕事とプライベート切り分けのスイッチの働きもしてくれている。

アトリエでも、やっぱりコーヒー

そんなドリフトコーヒーの清水さんとは、縁あって今年の夏から本格的にファンガスブラザーズのアトリエで一緒に焙煎をしたり販売を行う運びとなった。ジェームスのネイキッドビーンズも順調に成長を続けている。

Drift Coffee

みんなが集まった際にも、まずはコーヒーを淹れることから始まる。その日に合わせて毎回違ったものを味わいながら会話を弾ませ、場の空気が温まったところで各々は制作に取り掛かる。

なにをするにも、すべてはコーヒーを淹れることからはじまるのだ。

コーヒーがなければ、私はいまも布団の中で一人だらだらと過ごしていることだろう。

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